社会の障壁を越えて──
TENTIAL×ヘラルボニーが生んだ、前例なきコラボの舞台裏
プロフィール
塩野 清雅
2025年、TENTIALは障害のイメージ変容と新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニー・株式会社ヘラルボニーとコラボレーションを果たし、ヘラルボニーの契約作家2名の作品がそれぞれ描かれたリカバリーウェアを展開しました。両社のストーリーとビジョンが共鳴し走り始めた今回のプロジェクト。
発色豊かなアートを機能性ウェアに取り込むのは、TENTIALにとっても前例のない試みでした。その裏側で、素材選びから言葉遣いに至るまで、緻密な議論と学びの連続があったと語るのは、Sleep事業部部長の塩野清雅さん。今回の取り組みに込めた思い、実際に見えた変化、そしてこれからTENTIALが目指す未来について話を伺いました。

“新たな層に届けたい”──コラボレーションの起点にあった課題感
──今回のコラボレーションが始まった経緯について教えていただけますか?
塩野:本企画を考案した目的は、TENTIALだけではリーチしきれない層に、自分たちのプロダクトやメッセージを届けるためです。今回は初めてのコラボということもあり、どのような会社と組むか慎重に吟味しました。
ヘラルボニーさんを選んだのは、社会的意義が強く、ブランドにも確固たるストーリー性があったからです。加えて、福祉やアートという文脈から、私たちが今まで接点を持てなかった方々にリーチできる可能性があると感じました。
──ヘラルボニーに対して、どのような部分に共鳴されたのでしょうか?塩野:「社会に変革を起こしたい」という強い思いに対してです。ヘラルボニーさんは、障害のあるアーティストの方々と共に、アートの評価や価値を社会的な偏見から解放する取り組みをされています。そこには「個人に問題があるのではなく、社会にこそ障壁がある」という明確な視点があります。
一方で私たちも、「健康」という領域において、社会に変革を起こしたいと考えています。これまで、健康に対するイメージを、より日常的でポジティブなものへと変えていくことに取り組んできました。領域は違えど、その情熱に強い共感を覚えたのです。
──実際にその“共鳴”を深めるために、どのような取り組みが行われたのでしょうか?
塩野:代表の中西とPJメンバーで、実際にヘラルボニーさんのルーツである岩手を訪問し、アーティストの方々の作品に触れたり、ヘラルボニーのスタッフの方々に勉強会を開いていただきました。私たち自身、障害に関する知識や理解がまだ浅い部分も多かったので、言葉遣いや考え方の面で大きな学びがありました。
たとえば「障害を“持っている”という表現は、個人に問題があるという考え方で、障害が”ある”というのは社会側に問題があるということ」というお話がとても印象的でした。そうした言葉の一つひとつにも配慮が必要であり、社会側が変わるべきだという視点は、私たちのこれまでの価値観を揺さぶるものでした。
前例のないものづくり──アートと機能を融合した商品開発の舞台裏

──今回のプロジェクトでは、実際の商品開発もTENTIALにとって新しい挑戦だったのではないでしょうか?
塩野:そうですね。リカバリーウェアという機能性が重視されるカテゴリーにおいて、あれだけ鮮やかなアートを全面に出すというのは、弊社としても前例のない試みでした。特に色味の再現には非常に苦労しました。
紙に印刷するのと違って、生地の質感や元の色によって、印刷後の色の出方が大きく変わってしまうんです。原作に忠実な色を出すために、何度もサンプルを作って、ヘラルボニーさんと一緒に色味を確認する作業を重ねました。特に、総柄を再現する際には技術的ハードルが高く、時間も手間もかかる工程でしたね。
──それでもチャレンジしようと決めたのは、なぜだったのでしょうか?
塩野:アートが美しく見えることがこのプロジェクトにとって最優先事項だったからです。ヘラルボニーさんも、「アートそのものが評価されることが大切」というスタンスを強く持っていらっしゃって。だからこそ、表現の細部までこだわりました。
──アーティストの選定についても、何か基準があったのでしょうか?
塩野:ヘラルボニーさんから複数の候補を出していただいた中で、最終的に笹山勝実さんと和田成亮さんの作品を選ばせていただきました。笹山さんの作品は、斜めに、しかも下から上に描かれるという特徴的な技法が用いられていて、TENTIALのブランドメッセージとぴったり重なったんです。
和田さんの作品も、何度も塗り重ねていくという独自のスタイルがあり、それは“継続すること”の大切さや強さを象徴しているように感じました。私たちが届けたい価値観と、アーティストの背景や制作スタイルが一致しているかどうかも、非常に重視しました。
──「どのように描かれたか」にも注目していたからこそ、色味の再現にもこだわれたんですね。
塩野:そうですね。そのこだわりは、商品だけでなくパッケージにも反映されています。パッケージも「捨てられないもの」にしたいと考えて、ブランドロゴよりもアートを前面に出したデザインにしたのです。
狙い通り、実際に「家で飾っている」という声も多くいただいています。箱をアートとして楽しんでもらえること自体が、今回のコラボの意義の一つになったと感じています。
見え始めた社会的インパクトと、社内で起きた変化

──商品が販売されてからの反響も聞かせてください。
塩野:まずヘラルボニーさんの意図していた「アートとしての魅力を感じてもらう」という点については、多くの反響がありました。SNSでも「デザインが素敵」「こんなリカバリーウェアは初めて見た」という声が多く寄せられましたし、ファッション系のメディアからも興味を持っていただけました。
また、これまでリカバリーウェアをシンプルなデザイン性によって購買に至らなかった方々が、手に取っていただけたのは大きな成果でしたね。SNSでは、「このデザインならBAKUNEを買いたい」という声も見られて、しっかり新しい層にリーチできたと実感しています。
──社内での反応はいかがでしたか?
塩野:非常にポジティブでした。実は、社員が自腹で購入してくれるケースも多かったんです。「すぐ買いました」「箱を飾ってます」といった声もあり、プロジェクトに対する共感が社内にしっかり広がっていると感じました。
また、社員の意識にも2つの大きな変化がありました。1つ目は「リカバリーウェア=シンプルであるべき」というこれまでの常識が崩れたこと。今回のようなアート性の高い商品が受け入れられたことで、社内でも「もっとデザインの幅を広げよう」という意識が芽生えています。もう1つは、ヘラルボニーさんとの勉強会や対話を通じて、障害や福祉に対する理解が深まったことです。
──プロジェクトを通じて、会社としての価値観や文化にも影響を与えたわけですね。
塩野:そう思います。特に今回、社内の多くの関係者がプロジェクトに関わったことで、「なぜヘラルボニーと組むのか」「この商品にどんな意味があるのか」といったストーリーをきちんと共有できました。
店頭で接客するスタッフにも、その背景を伝えられるよう資料を整備したり、言葉の使い方を工夫したりと、商品を通じた学びの連鎖が生まれているのは非常に良い傾向だと感じています。
次なる挑戦へ──異業種コラボと“コンディショニング文化”の拡張

──今後の展望についても聞かせてください。
塩野:今後は、より異なるジャンルとの掛け合わせも模索しています。TENTIALが強みとするのは“機能性”ですが、それだけでは届かない層がまだまだいると感じています。
異業種とのコラボは、プロダクトの新たな魅力を引き出すだけでなく、私たちのブランドに触れる“きっかけ”を増やす手段でもあります。
──今後、パートナー選定の際に重視するポイントはありますか?
塩野:「ブランドとして共鳴できるかどうか」です。ブランドとしての価値観やビジョンの一致は、コラボの説得力に直結します。今後は意外性のあるブランドも視野に入れて模索していきたいですね。
──最後に、今回のプロジェクトを通して見えてきたTENTIALの課題や展望について教えてください。
塩野:「BAKUNE」という商品は多くの方に知っていただけるようになりましたが、一方でTENTIALという会社そのもののストーリーや想いまでは、まだ十分に伝わっていないと感じています。中西の実体験や創業背景など、私たちが何を目指しているのかをもっと社会に届けていく必要があると思っています。
そういう意味でも、今回のコラボは単なる商品開発ではなく、ストーリーやミッションを発信する良い機会になったと思います。特集ページやSNSなどを通じて、背景を丁寧に発信することを意識したことで、少しでも伝わったのではないでしょうか。こうした発信を積み重ねて、TENTIALの姿勢が徐々に浸透していけば嬉しいですね。