TENTIAL CRO室が公共政策に取り組む理由は、“社会実装”にあった
プロフィール
市川佑樹
一般的には製品の試験や分析を行う「研究開発部門」を意味するCRO室。しかしTENTIALのイノベーション本部に属するCRO室では、自治体や企業等との連携などに取り組む公共政策チームが存在します。製品の効果を検証するだけでなく、健康課題に対するプログラムをつくり、自治体とともに現場に届けていく——。そこには“コンディショニングを社会に根づかせる”という強い使命があります。
今回はイノベーション本部CRO室で公共政策を担当する市川佑樹さんと小林皐希さんに、CRO室の役割や、TENTIALがこのフェーズで社会と向き合う理由について話を伺いました。

「研究開発だけじゃない」CRO室が担う“社会実装”という挑戦
──CRO室の役割について教えてください。お名前からすると、研究や開発が中心の印象を受けました。
市川:一般的に「CRO(Chief Research and Development Office)室」は、研究開発の業務を担う部署と思われています。実際に弊社でも、CRO室では健康課題の解決に向けたアウトカム検証の企画等も行っていますが、役割はそれだけではありません。私と小林は、CRO室にいながら公共政策の取り組みも担っています。
小林:私たちが所属するイノベーション本部には、アスリートとのリレーション構築を担うチームや、コンディショニングに関する研究開発を担う「コンディショニング研究所」があります。これらのチームと並んで、公共政策や企業連携を担当する私たちのようなチームが存在するのは、少し特殊かもしれません。
CRO室では、定量的アウトカムの取得をもとに、健康課題の解決や制度設計までを視野に入れて、自治体や企業と連携しながら、現場でのコンディショニングの実装や制度づくりに取り組んでいます。
※アウトカム:「睡眠の質が上がった」、「ストレスが減った」などの取り組みの結果として生じる最終的な成果のこと
──研究開発部門であるCRO室の中に公共政策や企業連携を担当するチームがあるのは少し意外でした。なぜこのような配置になっているのでしょうか?
市川:公共政策部門は2024年2月、リカバリーウェア業界のルール作りをきっかけに立ち上がりました。当時は様々な企業が「リカバリーウェア」を販売しはじめ、一定のルールが存在するものの、基準や定義が曖昧で企業によって解釈が異なる状況だったのです。このため、製品の効果を示すエビデンスに基づいた広告販促ができるよう業界でルールを整備していく必要がありました。
小林:自治体や企業との取り組みでは、製品やプログラムを通じて自治体や企業が抱える健康課題の改善を図るわけですが、その効果を証明するためには試験設計や測定が欠かせません。そのようなエビデンスが必要な部分をコンディショニング研究所と連携して行っています。研究チームと密に連携できるため、結果を数値で示すところまで責任を持てるのが私たちの特徴です。
──研究機能と公共政策機能が一体となっていることで、どのようなメリットがありますか?
市川:例えば、ある自治体や企業で健康課題に対するプログラムを企画する際に、どんな効果を狙うのか、どんな指標で検証するのかまで、研究チームと一緒に詰めて設計することができます。通常、こうした公共政策部門はコーポレート部門や広報部門に属していることが多く、研究チームとは物理的にも機能的にも離れている場合が少なくありません。一方で弊社では、同じ本部内に研究チームがあるので、スムーズに連携できます。小林:健康課題に対して、どのプログラムが有効なのかを一から設計できるという点も強みです。既存のプログラムを課題に当てはめようとするのではなく、課題ベースでプログラムをつくる。その柔軟さが、社会実装を真剣に考える姿勢につながっていると感じます。

自治体と“価値観をすり合わせる”信頼の構築プロセス
──自治体との連携は、どのように進めてきたのでしょうか。
市川:今でこそいくつかの自治体と連携ができていますが、最初は本当にゼロからのスタートでした。私が入社した2024年5月は、小林が自治体を一から調べていた時で、一緒に電話をかけることから始めました。まさに営業電話の日々。
TENTIAL のことを知っている自治体もほとんどありませんでしたし、正直なところ「服を売りに来た会社」と思われることも多かったです。
──そこからどうやって信頼を築いていったのでしょう?
市川:大事なのは、自治体と我々の「価値観のすり合わせ」です。ただ商品を提案するのではなく、「一緒に地域の健康課題に取り組みたい」という思いを丁寧に伝えることから始めました。そういった意味では、我々が掲げている「健康に前向きな社会をつくる」というミッションに共感してもらえるかどうかが、大きなポイントになります。
小林:こちらの話を聞いてくださる自治体でも、最初は「プログラムって何?」という反応が多かったです。それでも、説明を重ねるうちに、少しずつ「一緒にやってみようか」という流れが生まれてきました。
──具体的な自治体との取り組みも聞かせてください。
市川:一番大きな契機となったのは、2025年3月に静岡県三島市さんと結んだ包括連携協定ですね。三島市では、40〜50代のメンタルヘルスに起因する自殺死亡率が高く、睡眠不足はメンタルヘルス不調に繋がるといわれているため、睡眠からのアプローチを模索したいという課題がありました。そこで、我々のコンディショニングプログラムを活用して、日中の体操や呼吸法、そして製品を組み合わせた30日間の取り組みを実施したのです。
──その結果、何か効果は見られましたか?
市川:職員の方々に実際に体験していただいたところ、睡眠やメンタルヘルスの改善が見られました。こうした成果を通じて、「TENTIAL と一緒にやると面白いことができそうだ」と思っていただけるようになり、今では他の自治体や企業からご相談をいただくことも徐々に増えてきています。
小林:最近では、自治体の方から「睡眠啓発のためのチラシを作成してもらえないか?」と声をかけていただけることもあります。信頼関係が築かれてきた証だと感じていますね。
スタートアップだからできる、“いま”の公共政策
──これまでの取り組みについて、どのようなフェーズを経てきたのでしょうか?
小林:2024年は、「実績をつくる」ことに集中していました。自治体との接点もゼロに近かったので、とにかく当社と関連度の高い自治体にアプローチをかけたり、セミナーやイベントに登壇したりと、数を打つことで認知を広げてきました。
市川:初年度は、「どんな会社かも知られていない」という状態でしたので、実績を見せないと信頼してもらえませんでした。2025年に入ってからは、TENTIAL が掲げるコンディショニングを理解してもらえるようになり、少しずつ自治体から声がかかるようになったと感じています。今は、すでに連携している自治体を中心に、コンディショニングを活用した健康まちづくりに本格的に取り組むフェーズに入っています。
──TENTIAL ならではの強みを聞かせてください。
市川:スピード感です。通常なら6ヶ月かかるようなことでも、TENTIAL では3ヶ月で進めることも珍しくありません。意思決定から実行までが速いので、自治体との協議や実証にもテンポよく進められます。さらに、日常生活や一人ひとりに合ったコンディショニングを提案できるので、社会にコンディショニングのタッチポイントをどんどん広げていけるのも大きな強みです。
小林:もう一つは柔軟性だと思います。コンディショニングという考え方自体が、「その人に合ったものを選んで取り入れればいい」というスタンスなので、アプローチが画一的にならず、自治体や企業と一緒につくりあげていくことができます。そういう姿勢が、TENTIAL らしさだと思っています。

社会に「コンディショニング」を根づかせる未来へ
──CRO室として、今後はどのようなビジョンを描いているのでしょうか?
市川:「コンディショニング=TENTIAL 」という認識を社会に根づかせたいと思っています。現在はリカバリーウェアを中心とした製品での認知が多いですが、今後は製品にとどまらず、まちづくりやコミュニティといった形でのアプローチも多くのプレイヤーを巻き込んで広げていきたいと考えています。そして、コンディショニングの認知を高め、実践する人を増やし、社会への実装を加速させることで、事業成長につなげていきたいと思っています。これができるのがCRO室です。
小林:実際に、自治体との取り組みでは、働き世代を対象とした『睡眠コンディショニングプログラム』の展開を計画しています。また小中学生を対象とした『睡眠コンディショニングの学習講座』をトライアル的に企画しており、将来的には、小中学校の教育現場に年間を通じた継続的な学習として導入していけるような仕組みづくりができたらと考えています。
──CRO室としての体制や、今後強化していきたいことはありますか?
市川:これまでは、どちらかというと開拓フェーズだったので、営業的な動きも含めてなんでも自分たちでやってきました。ですが今後は、得られた成果やエビデンスをどう見せ、どう社会に発信していくかといった“可視化”にも力を入れていきたいと考えています。社会にどんなインパクトを与えたのかをきちんと伝えることが、次の信頼につながると信じています。また、コンディショニングを健康政策の1つとして位置付けることができれば、「健康に前向きな社会」にさらに近づくはずです。
──最後に、CRO室のようなチームで働くうえで、どんな人が向いていると思いますか?
市川:やはり健康課題に対する関心が強い方が向いていると思います。業務としては地道で中長期的な取り組みが多いですし、自治体や企業との調整も多いので、コミュニケーション力や粘り強さも必要です。しかし、その分だけ社会課題の本質に近い場所で、実際に変化を生み出す仕事ができます。そして、こうした健康課題を解決する取り組みは、TENTIALの事業価値にも直結します。社会にインパクトを生み出しながら、事業成長にもつながる―ここが大きな魅力だと思います。
小林:必ずしも経験者が活躍するとは限りません。公共政策未経験であっても、「こういう社会にしたい」という思いがあって、そのために手を動かせる人なら、きっと楽しめる環境だと思います。私自身、未経験からのスタートでしたが、会社と一緒に生み出した社会的なインパクトを最前線で感じることができるのが、この仕事の大きな魅力だと感じています。