スポーツでもファッションでもない。
コンディショニングを切り口にフットウェアを再定義する
プロフィール
八幡健太郎
理学療法士の知見を、モノづくりの世界へ。
大学・大学院でリハビリテーションを学び、大手スポーツメーカーで11年、医療機器スタートアップで3年。異色のキャリアを経てTENTIALに入社した八幡健太郎さんは、入社直後から研究開発のフローをゼロから設計し、今はフットウェア領域の研究開発と商品開発を一人で横断しながら担っています。
箱根駅伝や東京オリンピックといったビッグプロジェクトをやりきった八幡さんが、次の舞台に選んだのはなぜTENTIALだったのか。そして、「コンディショニングを切り口にしたフットウェア」という新カテゴリーを確立するために、今何に取り組んでいるのか聞きました。

ビッグプロジェクトをやりきった先に、見つけた場所
――まずは、これまでのキャリアについて教えてください。
八幡:大学と大学院で理学療法を学んでいました。リハビリテーションの研究をしながら、人の体の動きやスポーツとの関わりに興味を持ち続けていたんです。就職先として病院も選択肢にありましたが、病院に入ってしまうと、どうしても限られたコミュニティの中での経験にとどまってしまいます。それよりも、社会に出て学びの範囲を広げたいという思いが強く、大手スポーツメーカーに新卒で入社しました。
最初の2年間は研究部署で、ランニングやウォーキングなど、人の動きを研究していました。その後は開発部門に移り、計11年にわたり幅広い製品開発を担当しました。
――11年の中で、特に印象に残っているプロジェクトはありますか。
八幡:2つあります。1つは、箱根駅伝のシューズプロジェクトです。ある年、他社の厚底シューズが1区から9区まで、区間賞を総なめした年がありました。そのなかで唯一、10区の区間賞を自分たちのシューズが取ったんです。そのプロジェクトの一部を担っていました。
もう1つは、東京オリンピックで金メダルを獲得した卓球選手のカスタムシューズです。その選手専用のシューズ開発を担当しました。どちらも、自分のキャリアの中で大きな節目になった経験です。
――そこから転職を考えたのは、どんな理由からだったのでしょうか。
八幡:「やりきった」という感覚が芽生えたからです。大きなプロジェクトが続いて、一つの区切りを終えたなと。次は「メディカル×モノづくり」で何かできないかと思い、医療機器業界を中心に動き始めました。
転職先はスタートアップで、3Dプリンターで最終製品を出力するという、当時としては新しいビジネスモデルで、そこに強く惹かれました。設計から品質管理まで全工程を自分で担い、在籍の3年間は、ゼロから仕組みを作り上げていく期間でした。
――そこからさらに、TENTIALを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
八幡:人柄とモノづくりへの姿勢です。複数の会社と話す機会があったのですが、TENTIALのメンバーと食事をしたとき、誠実にモノづくりをしているという姿勢がはっきり伝わってきました。
リカバリーウェアという領域は、まだ「本当に効果があるのか」という目で見られることもあります。だからこそ、誠実に作っている会社かどうかは、自分の中で大きな判断基準でした。事業を成長させながら、エビデンスと信頼性をきちんと積み上げていく。そのバランス感覚が、自分の考えと重なったんです。
「仕組みがない」を、チャンスに変える

――TENTIALに入社して、最初に感じたことを教えてください。
八幡:R&D(研究開発:Research and Development)の仕組みが、ほとんどなかったこと。それが率直な第一印象でした。
TENTIALのモノづくりは、それまで「良い製品を作って、エビデンスを取って、世に出す」という流れでした。ただ、その前の段階である「そもそもどんなコンディショニングが必要か」「そのためにどんな設計をすべきか」という研究開発フェーズが、まだ確立されていなかった。スタートアップ企業なので、ない場合も当然ありえますが、大手のモノづくりを経験してきた自分には、何が足りないかがすぐ見えました。
――それを、どう解決していったのでしょうか。
八幡:課題を整理して「これをやりましょう」と働きかけていきました。入社後1〜2ヶ月は社内の課題を探すことに集中して、新しく入ってきたメンバーと課題意識を共有しながら、一緒にR&Dのフローを作っていきました。
今では、R&Dのテーマが10〜20件ほど動いています。新たな材料の開発、新たなフィッティング技術の開発、睡眠環境を整えるための評価方法の確立など、さまざまなテーマが並行して動いています。入社当初はゼロだったことを考えると、これらが動くこと自体、一つの成果かなと思っています。
――大手から来た方が戸惑うことも多いと思いますが、それでもやりがいを感じられるのはなぜでしょうか。
八幡:基準もルールもフローもない環境に慣れていない方は、苦労されることが多いと思います。ただ、私はそこをネガティブに捉えなかった、というのが答えです。
前職でもほぼゼロから仕組みを作り上げてきたので、環境が整っていないことへのアレルギーはありません。ないなら、作ればいい。R&Dがなければ作る、品質基準が不十分なら整える、工場の選定基準もゼロから考える。そのフローを自分の手で作っていけること自体が、この仕事のやりがいです。
「技術の種」が、製品をまたいで広がっていく

――現在はどんな仕事を担当されているのでしょうか。
八幡:コンディショニング研究所に本務を置きながら、商品開発にも携わっています。フットウェア領域の研究開発と商品開発を、横断して担っています。
モノづくりの現場では、研究と開発は分業されているケースがほとんどですが、前職の大手スポーツメーカーで研究と開発を順番に経験していたので、両方の感覚を持っていました。TENTIALでは入社当初からその両方を担ってほしいとオーダーがあり、この1年でウェイトが少し変わったという感じです。
――両方わかることで、どんな強みが生まれるのでしょうか。
八幡:商品の企画から設計、エビデンスの取り方まで、一気通貫でストーリーを描けることです。たとえば「こういう価値をお客さんに届けたい」という話が社内で出たとき、どう設計して、どう評価して、どんなエビデンスを持って世に出すか、そこまで自分で設計できます。その解像度が高いほど、最終的な製品に反映しやすくなります。
――具体的にどんな研究を進めているか、教えてもらえますか。
八幡:「技術の種」を作ることが、メインの仕事です。たとえばリカバリーサンダルで言うと、どんな材料のどんな組み合わせが最適か、ボトムの形状はどうあるべきか、人が感じるクッション性をどう試験すれば感覚と一致するか。そういった土台となる技術を確立していきます。種ができると、既存製品から新規開発品まで、同じ技術を横展開できます。TENTIALのモノづくりの土台になるものだと思っています。
――研究室にこもるだけでなく、現場に出ることもあるのでしょうか。
八幡:繁忙期には店舗のサポートに入ることもあります。昨年は丸の内の店舗で、実際に接客をして製品を販売しました。研究開発の担当者が接客をするのは、大手企業ではまずないことだと思います。しかし、どんな人がどんな思いで買うのかは、実際目にしないと理解できません。店舗での体験が、製品を設計するときの解像度につながっています。
――ユーザーの声は、製品にどう反映されているのでしょうか。
八幡:発売後1〜2週間で声が入ってきて、週次のミーティングで議論してすぐ反映する、というサイクルが回っています。大手企業だと数ヶ月後、場合によっては半年後にレビューをすることも少なくありません。金型を変えるような根本的な設計変更は時間がかかりますが、品質基準や検品の方法を変えるなら即日でも対応できます。できることから素早く動く、それがTENTIALのモノづくりのスタイルです。
スポーツでもファッションでもない、フットウェアをつくる

――今後、TENTIALでどんなことを成し遂げたいですか。
八幡:まずはフットウェア領域を、BAKUNEと同等の売上規模に育てることです。そのために研究と技術の土台をしっかり作っていくこと。それが今の一番の目標だと思っています。
フットウェアの業界は大きく、「スポーツ」と「ファッション」の2つに分かれています。前者は大手スポーツブランド、後者は百貨店などで展開されるファッションブランドが中心です。
一方で、人の健康やコンディショニングといった観点からフットウェアを設計しているブランドは、現状ではほとんど存在していないと認識しています。
TENTIALがそのカテゴリーを確立できれば、スポーツでもファッションでもない、TENTIALならではの立ち位置が生まれる。それがフットウェアをTENTIALの第2の柱にするということだと考えています。
――最後に、転職を検討している方へメッセージをお願いします。
八幡:大手企業で培ったスキルは、社内にいると貴重であることを当事者は自覚できていないケースが多いです。例えば、設計や品質管理、フローを作るといった知見が該当します。それらは大手企業にいると当たり前のスキルとして感じられますが、スタートアップでは入社初日から大きな武器になります。
TENTIALは今、企業として目指す理想の1割も実現できていない段階です。だからこそ、自分の手で仕組みを作り、カテゴリーをゼロから育てる経験ができます。そういったチャレンジを楽しめる方に、ぜひ来ていただけたらと思っています。